「小学生の甲子園」こと高円宮賜杯第44回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月15日夕刻、東京・神宮球場での開会式から始まる。『学童野球メディア』からの特ダネのプレビューは、前・後編に分けての大展望で締めとしよう。なお、全47都道府県の予選や代表チームを取材できているわけではないので、あくまでも観戦や応援の参考のひとつに!
(写真&文=大久保克哉)
しんげ新家スターズ
[前年度優勝・大阪/1979年創立]
出場=3年連続4回目
最高成績=優勝/2023年
初出場=2017年/2回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=2回/2015、19年
1年前の初Vにも貢献した2人。山田(上)が投打の要、藤田主将(下)はチームを引っ張る
完全無欠の全勝ロード。新チーム始動から練習試合を含めて、まだ1敗もしていないという。昨年度のチャンピオン、大阪・新家スターズは今年も突き抜けている。
毎年の優勝チームには翌年の出場権が与えられ、都道府県予選も免除される。それでも新家はあえて、府予選に参加して2連覇を達成。ハイレベルな大阪の王者というプライドも携えて、夢舞台に登場となる。
「もちろん、やるからには今年も獲らせていただくつもりですけど、あまりにも優勝、優勝と言い過ぎても子どもたちのプレッシャーですから。大会の横断幕にもあるように『楽しんでいこうぜ!』という感じの声掛けもしているところです」
こう語る千代松剛史監督は、百獣の王を思わせるような眼光の勝負師だ。でもその実、謙虚で思慮深い。選手と1対1のコミュニケーションも密で、言動に説得力がある。激変する時代にあっても、学童球界をリードするべき大人のひとりであることは、当メディアの過去の記事や動画でもお分かりいただけるだろう。
実情も手の内も隠さず
走攻守すべてに抜かりのない、新家の″整い野球″は健在。昨年のV戦士のうち、藤田凰介主将と山田拓澄(「2024注目戦士」➡こちら)が残るのも心強い。
「打撃はどのチームも強烈でハマったら怖い。ウチは正直、長打力だけは去年のほうが上。投手は左の山田と、右が3枚。エースの山田はちょっと調子が悪いので、誰が軸かは本番次第」
千代松監督が実情をそこまで話せるのは、余裕からではない。「選手はあくまでも成長過程の小学生やし、この情報化社会で隠せることなんてない」との信念がある。7月末の高野山旗もそうだった。
ふなばし船橋フェニックス
[東京/1971年創立]
出場=2年連続2回目
最高成績=2回戦/2023年※初出場
【全国スポ少交流】
出場=なし
船橋のエース格・松本一(「2024注目戦士」➡こちら)は、逆方向へもサク越えがある
高野山旗の決勝の相手は、新人戦の関東王者にして″東京無双″の船橋フェニックスだった。夢舞台でも3回戦で激突する可能性があるが、新家はベストメンバーで先発し、山田も3回途中から登板。そして5対2の勝利で連覇を遂げている。
「高野山旗という立派な大会の決勝で相手は強敵。そういう緊張感の中でもプレーしたら、それもまた成長の糧になるのと違うかな、と。昔は逆に手の内を隠して失敗もしてるんです。選手を温存して万全でいったはずの本番で、力をホンマに出し切れんかった」
そんな前年V監督に対して、船橋の木村剛監督は「非常にフランクな人で、宿坊ではリラックスされていましたね」と印象を語る。実は高野山旗の最終日前夜は、両チームは同じ宿坊で過ごしたという。
「新家さんについては、あまり前情報を入れずに戦いましたけど、やはり戦い方を知っているし、投手陣の緩急、内外の投げ分けもさすがでした。ウチも経験が形になってきている。高野山旗も4試合で監督からのタイムは1回。他の面も含め、子どもが自分たちで考えてできるように。残念ながら高野山は準優勝。マックはもう、てっぺんを狙っていいでしょうね」(木村監督)
さんや山野ガッツ
[埼玉/1971年創立]
初出場
【全国スポ少交流】
出場=なし
山野打線の下位にいる遠山景太は、一発もある侮れない強打者だ
東西王者のリマッチが3回戦で実現すると、多くの注目を集めることだろう。他方、それを阻まんとする急先鋒は、埼玉から初出場の山野ガッツだ。
全国で唯一、地域選抜チームも出場する埼玉大会で6試合99得点。切れ目のない″山賊打線“の驚異に加え、エース右腕の高松咲太朗ほか投手陣も粒ぞろい。マスクをかぶる樋口芳輝(「2024注目戦士」➡こちら)は、捕手スキルでも打撃でも玄人をうならせる。各会場へ日帰りできる地の利もアドバンテージだろう。
時短で身体もより大きく
参加チームの中での最多出場は、滋賀・多賀少年野球クラブ。創設者でもある辻正人監督は、7大会連続17回目となる今回のトーナメント表を受けて、まず軽くぼやいた。
「勝ち上がるほど強いチームとやるのは当然なんすけど、なぜ毎年こう、トーナメントの左ブロックに集まるのか…」
確かに。例年、約半数が初出場(今年は25)という中でもその傾向がある。今年は過去の優勝4チームのうち、多賀を含む3チームが左ブロックに。2大大会のもうひとつ、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で優勝3回の福島・小名浜少年野球教室もやはり。さらに昨年準Vの東京・不動パイレーツ、3年前準Vの愛知・北名古屋ドリームス、2019年から2大会連続3位の千葉・豊上ジュニアーズ、2ケタ出場に王手をかけた長崎・戸尾ファイターズと、錚々たる顔ぶれがこちらの山に集まっている。
とよがみ豊上ジュニアーズ
[千葉/1978年創立]
出場=2年ぶり5回目
最高成績=3位/2019、21年
初出場=2016年/3回戦
【全国スポ少交流】
未登録
豊上の攻守の要、岡田悠充主将。状態と状況次第で登板もありそう
2回戦から登場の前年王者にとっては、あたかも「包囲網」だ。ここを抜け出すだけの実力を、当メディアの取材で確認できているのは先の船橋、山野のほかは多賀と北名古屋になる。
多賀は今や100人超の大所帯。知名度も「野球」の枠を超えてきた辻監督は、変化を恐れぬ勇気と賢さがある。昨年は2017年以来の初戦敗退。これを受けて、今年は時短の「半日活動」はキープしつつ、実戦経験と個々の体力を大きく上積みしてきたという。
たが多賀少年野球クラブ
[滋賀/1988年創立]
出場=7大会連続17回目
優勝=2回/2018年、19年
初出場=2000年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/2016年
「例えば、20人で1試合していたものをレギュラー組と準レギュラーに分わけて、それぞれ別に試合をするので経験は倍になる。あとは炎天下でもバテないように、活動中はプレー以外もすべてを全力でやる。そこが去年とはハッキリ違います」(辻監督)
7月までは2組で選手の入れ替えも頻繁に行い、メンバー25人はほぼ固まった。1試合3発など猛烈なスイングの松永眞生(「2024注目戦士」➡こちら)をはじめ、総じて身体が大きくなっているというのは、時短活動と大人発のストレスがないことも要因だろう。
人も奇縁も招く名将
北名古屋(「チームファイル➍」➡こちら )は、伝統の打力が今年も健在だ。「ウチは緩いから、優勝できないんですよ」と岡秀信監督は自嘲気味に語るが、選手たちは金メダル奪取に本気だ。
昨夏に神宮でも登板した富田裕貴主将(「2024注目戦士」➡こちら)は、攻守を機能させる潤滑油の役割も。同じく二刀流の注目株、左投左打の三島桜大郎は「全国でも良いピッチングをして、ホームランも3本くらいは打ちたい」と語る。
きたなごや北名古屋ドリームス
[愛知/2006年創立]
出場=2年連続6回目
最高成績=準優勝/2021年
初出場=2017年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=2回
最高成績=べスト8/2009年
北名古屋の三島は投打にスケールが大。インパクトもパンチもある
人格者の北名古屋・岡監督には交流の依頼も絶えない中で、6月末には石川県から西南部サンボーイズが遠征でやってきた。激しい雨の間隙で強攻した1試合はワンサイドとなったが、初対面同士の選手たちが試合後は自ずと歩み寄り、記念撮影に(=下写真)。
「ああいう姿を見られただけでも名古屋まで来た甲斐がありました」と話した西南部の北川貴昌監督にその後、衝撃が走る。7月18日発表の組み合わせの1回戦の相手が、何と北名古屋に。
「何の縁かな。今年の全国出場チームの中で交流できたのは北名古屋さんだけ。それが50分の1の確率で再戦ですから…。まぁ、パワーバランスは理解してますし、プラスに考えて自分たちの形を出せれば。もちろん、石川代表のプライドもあります。2022年は中条(ブルーインパルス)さんが優勝。ウチも2009年に優勝したときの監督や選手たちも激励に来てくれました」(北川監督)
せいなんぶ西南部サンボーイズ
[石川/1984年創立]
出場=14年ぶり7回目
初出場=1994年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=なし
西南部の北川監督はOB。相手側の好プレーも称えるなど、チームの伝統のひとつというスポーツマンシップも自ら具現する
西南部は出場5回目の2009年に初優勝。決勝で2対1で下した相手は多賀だった。現在の北川監督はその後に就任。6年生4人の若いチームを率いる今年は、前年度優勝枠での出場以来14年ぶりの夢舞台を決めた。
エース右腕の岩﨑陸はスペシャルな軟投派(「2024注目戦士」➡こちら)。四番・捕手の竹村琥大郎主将は「緊張もあるけど、楽しみです。とにかく明るいのがチームの良いところ。予選と同じようにみんなで助け合いながらベスト4を目指します」と意気込みを語っている。
おなはま小名浜少年野球教室
[福島/1977年創立]
出場=3年ぶり13回目
最高成績=ベスト8/1996年、2011年、14年
初出場=2017年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=9回
最高成績=優勝/1995年、96年、2004年
小名浜は2022年の全国スポ少(8強=写真)以来の全国となる
東北の名門・小名浜も、北名古屋と15年来のつながりがある(「監督リレートーク❸」➡こちら)。ともに勝ち進むと3回戦で、全日本学童での初対決が実現する。
出場13回目のチームを率いる小和口有久監督は、満76歳になる。「岡監督と全国でまた再開でぎっのが最高です。過去にピッチャーがいがったときはベスト8までいったけど、今年はこじんまりしてっかなぁ」と磐城弁で第一声。伝統的に打力が売りのチームで、今年も中軸に強打者はいるが、機動力のほうが際立つ打線だという。
「全国はピッチャーが抑えらんねぇと、試合にもなんねぇから。あとは最近、東京が強いねぇ」(小和口監督)
東京第2代表、不動との1回戦は好勝負が期待できそうだ。
その不動には昨夏の準V戦士でチームの本塁打王だった難波壱(「2024注目戦士」➡こちら)がいる。また三番・捕手の細谷直生は、東京第1代表の船橋で四番・一塁の濱谷隆太と、低学年時代は異なるチームでバッテリーを組んでいた。その後、全国出場という高い目標を叶えるために、別々のタイミングで異なるチームへ。右打ちの細谷も、左打ちの濱谷も、世代を代表するような巨漢のロングヒッターだ。70mの特設フェンスがある夢舞台では、そろって「5本塁打」を個人目標に定めている。
《後編につづく》
ふどう不動パイレーツ
[東京第2代表/1976年創立]
出場=2年連続5回目
最高成績=準優勝/2023年
初出場=2016年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=なし